神戸製鋼と関西電力の石炭火力発電による
電力の正式売買契約に対する声明

1997年3月13日
石炭火力発電所問題を考える市民ネットワーク
神戸市中央区中町通3-1-16 (078)371-4560
世話人 和泉 正人 (兵庫県保険医協会医師)
井上 准一 (神戸公害患者会)
小牧 英夫 (弁護士)
小山 乃里子 (神戸市議会議員)
広岡 豊 (兵庫労連)
藤田 晃 (甲南大学教授)
風呂本 武敏 (日本科学者会議兵庫支部・神戸大学教授)
森岡 芳雄 (東神戸病院医師)
 

 神戸製鋼と関西電力は、住民の心配をよそに、70万KWもの大容量石炭火力発電所建設を計画し、その電力の卸契約を結んだ。かかる巨大な石炭火力発電所は大きな環境汚染源になるとして、昨年来私たちは重大な危ぐを表明してきたが、ここにあらためて環境問題の重大な事態を指摘し、両社に対し計画の見直しを要請する。

 発電所建設予定地の神戸市や沿岸域は、現在2重の深刻な大気汚染問題を抱えている。1つは地域の公害・大気汚染である。二酸化窒素(NO2)や浮遊ふんじんは環境基準を超える汚染が続いており、いまも多数の大気公害患者がおり、ぜん息などで医療助成を受ける児童らが苦しい生活を強いられている。健康被害は最悪の公害であり、1日も早い汚染克服は被害者の切実な願いである。2つは、亜硫酸ガス(SO2)やNO2が原因の酸性雨、炭酸ガス(CO2)などが原因の温暖化など地球規模の広域大気汚染である。pH4台の酸性雨は神戸市域も含めて長く観測され、SO2、NOxの排出抑制が急がれている。温暖化について国連の気候変動に関する専門家組織(IPCC)は、直ちに削減に取りかからねば深刻な影響が表れるとの報告書を出しており、本年12月、削減計画作成のために、京都で国連の会議が開かれる。CO2削減は焦眉の課題になっているのである。

 神鋼神戸製鉄所は、現在でも神戸市における工場・事業場からのNOx、SO2年間排出量の過半を占める市域最大の汚染源であり、なお一層の排出削減が求められている。かかる所へ70万KWの石炭火力発電所が計画されているのである。同社のパンフレットによって推算すれば、SO2年間排出量は2倍以上に増え、NOxも増える可能性が大きい。加えてフッ素、水銀、セレンなどがまき散らされる。CO2については同パンフは意味ある対策を述べていない。改善こそが急務の大気汚染に対し、石炭火力発電所は新たな大汚染源として重大なインパクトを与えるのである。

 影響は大気汚染ばかりでない。産業廃棄物もまた深刻な社会問題になっているが、石炭火力発電所は大量の燃えがら、重金属の混じった廃棄物を生み出す。水環境への影響も看過できない。大阪湾、とりわけ北東部の海域の水環境改善が大きな課題であるが、そこへ石炭火力発電所は海水の浄化力を弱める大量の温排水を放出する。

 このように70万KW石炭火力発電所は、大気をはじめ水、廃棄物など、現在すでに深刻な事態にある諸々の環境問題に、なお大きなインパクトを与える。公害患者はもとより、市民には容認できる計画ではない。私たちは以下の諸点を要請する。

  1.  兵庫県、神戸市は、住民の健康、環境を守る立場を堅持し、総量方式に則った徹底的な環境問題の洗い直しを行うよう要請する。   神戸製鋼のパンフは、高煙突から拡散させるので大気汚染は問題ないかのような説明をする。とんでもないことである。我が国はかつて高度成長期に、高煙突拡散方式で汚染の広域化を招き、多大の被害をもたらした苦い経験を持っている。総量規制でなければ効果はない。まして酸性雨や、CO2汚染は総量を抑える以外に対策はない。   県、市は2重の大気環境汚染対策にリーダーシップを発揮し、この観点から、今回の石炭火力発電所計画を見直すよう、神鋼、関電両者に勧告するよう要請する。

  2.  関西電力の入札募集要項によれば、大気汚染防止対策及び温排水対策について、地元自治体と調整することが条件に入っている。したがって神戸市と神鋼との間でこの調整が行われ、その結果が今回の正式契約に対して寄与したわけで、神戸市の責任は重大である。 私たちは再三、神戸市にその調整内容の資料公開を要求してきたが、神戸市は未だに応じようとしない。市民の健康、環境の保全のためには、資料を積極的に公開し、市民の心配を解くことこそが神戸市の責務である。あらためて公開を要請する。

  3.  関西電力は、需要追随方式の電力供給整備はもう止めるべきである。先述のように環境問題は極めて深刻だからである。同社が電力需給の社会的責任を持つとするなら、環境保全を第1の課題に取り上げ、節電の活動を展開して可能な限り発電所の増設を避け、その一方で、太陽光発電など環境保全型供給技術の普及活動を展開し、現有の石炭など化石燃料を用いる火力設備を計画的に縮小していく。そのような方策こそが同社の取るべき課題である。

  4.  神戸製鋼は、現有の石炭施設・技術を“活用”する、利潤追求だけが目的のような電力生産は安易に過ぎ、環境問題への認識が欠けている。経団連は1996年7月に、環境アピール「21世紀の環境保全に向けた経済界の自主的行動宣言」を発表している。CO2排出削減は人類史上で初めて経験する大事業であり、国や自治体の権限だけで実行できるものではない。企業活動が環境保全めざして転換されるべき時にきている。同社も社会のニーズに応える責任を果たすというなら、石炭火力ではなく、太陽光発電など環境保全型の技術や生産にこそ、持てる力を投入すべきであろう。

  5.  神戸・阪神間は、大震災の甚大な被害からの復興に総力を挙げて取り組んでいる。被災者・住民が望む復興は、みんなが健康で安心して暮らせる、そして環境の良い、人間に優しい街づくりである。兵庫県・神戸市、神戸製鋼は、クリーンエネルギーを活用した未来に誇れる、21世紀を展望した震災復興・街づくりを進めるべきである。

以上