ふうせんによる神鋼石炭火力発電所からの
大気汚染物質拡散調査結果

1999年6月1日
石炭火力発電所問題を考える市民ネットワーク

  1. はじめに
  2.  5月22日(土)午前11時35分、神戸市灘区灘浜の神鋼石炭火力発電所建設予定地西隣の公園より、ヘリウムガス入りふうせん150個に返信用ハガキを付けてとばしました。


  3. 調査当日の気象条件
  4.  調査当日の詳細な気象条件は現在収集中であるが、大まかな気象条件は5月21日21時、22日9時、22日21時の各天気図からわかるように、いずれも晴れであった。
     ふうせんをとばした日の午後から翌朝にかけての天気は、太平洋から東シナ海に張り出す高気圧に覆われて、1日中晴天が続いた。翌日の午後から気圧の谷の通過にともない、次第に曇りがちの天気に変わり、夜遅くには雨が降り始めた。気温は最高気温26℃、最低気温18℃で、ともに平年値よりも高かった。
     以下に示すように雨天が翌日の夜間であったため、このときにはふうせんはすでに落下していた。

     

  5. 返信ハガキの到達結果
  6.  5月末日現在、15通のハガキが2府4県の9市より返信されてきた。

    ※概算距離は、地図上での直線距離
    落下地 個数 発券時間から推測した飛行時間 概算距離
    兵庫県伊丹市 1時間 20q
    大阪府高槻市 落下済み 40q
    京都府京田辺市 2時間半 50q
    滋賀県大津市 落下済み 70q
    三重県四日市市 5時間半 130q
    三重県亀山市 落下済み (石水渓) 120q
    愛知県知多市 6時間 155q
    愛知県東海市 5時間40分 160q
    愛知県豊田市 落下済み 170q
    合計 15

     上記の結果を地図上にに示すと別紙の結果となる。

    1.  ふうせんの大きさで飛行航路は2つに別れた。ふうせんの大きさが直径30pのものは浮力約3グラムに相当するのに対し、直径20pのものは0.5グラムにしか相当しない。また大きいふうせんは浮力も大きいが風を受ける横の面積も大きいため風の影響を強く受ける。ふうせんを放って最初は、大気境界層での発達した海風の影響を受けて東北東方面に進行し、西宮市上空に達した後、六甲山での高度(標高900m)の影響が解除され、海風による北東方向と図3に示した大気境界層上部の偏西風や大きな気圧配置風による東方向とに別れたと思われる。

    2.  この分離地点までの距離が約5qで約30分かかったと思われる。低層部分側は伊丹市(約20q)まで1時間で到達している。一方上層部分側は京田辺市(約50q)まで2時間30分で到着。三重県四日市市(約130q)まで5時間30分で到着している。伊勢湾を超えた知多市(約160q)には6時間で到着している。

    3.  四日市市周辺で伊勢湾内での海風の影響を受けた。つまり、ふうせんの飛行高度の低いものは四日市市での海風の向かい風に逆らえないで四日市周辺地域に落下したと思われる。飛行高度が高いものは偏西風等を受けそのままの方向で進行し、伊勢湾を横断し知多市、東海市、豊田市にまで達した。


  7. 調査結果から見た考察
    1.  神鋼石炭火力発電所の高煙突化によって、排出汚染物質の一部が図3の大気境界層の上部にまで達し得るとすると、ふうせんによる調査結果が示したように、伊勢湾地域まで影響を及ぼす可能性がある。近年の研究調査によって中国の石炭火力発電所からの排煙が日本海側で強い酸性雨として観測されている事が、イオウの同位元素比で明らかにされ始めている。

    2.  低層部でも伊丹市まで1時間で到達していることからもわかるように、伊丹市、川西市等の阪神間および池田市、茨木市、高槻市等の大阪府の北摂地域での大気環境悪化への影響が懸念される。

    3.  高煙突広拡散方式は、地域環境を第一として行動しなければならない21世紀に向け明らかに逆行している。近年発表されている環境庁調査の全国酸性雨調査においてもpH4.0以下の地点が多く観測されており、このまま進めば10年も経ないで、黒い森のドイツや死喝した湖の北欧と同じ状況になる事が予測される。

    4.  電力需要は、工夫すれば当面は発電所建設は必要ない。日常の設備稼働率は50%程度とされ、ピーク電力供給のためと発電所建設が行われている。神鋼石炭火力発電所はそれに当たらないと言われているが、電力需要の伸びは、大企業の自家発電の増加、個人家庭でのソーラー発電の増加、21世紀を見込んだ省エネビル、省エネ事業の強化などによって鈍化することは明らかである。

    5.  21世紀に向けての循環型社会のためのエネルギー産業なら、規制の汚染物質以外に炭酸ガス(地球温暖化ガス)排出や廃熱をどう抑制するかが明らかにされなければならない。市民への合意手法も高度経済成長期と全く変わらない手法で行われているのは許されるものではない。


    <返信ハガキのメッセージ>

    •  5月の心地よい風にふかれ、1つの黄色い風船がこの地に舞いおりました。ゆっくりと現在の変わりつつある日本列島をどんな思いで見つめていたのでしょう。人間がはき出し続けた欲望という名のスモッグで日本列島はかすんでいた事でしょう。(愛知県豊田市)

    •  神戸からこんなところまで飛んでくるなんて少し心配です。(愛知県東海市)

    •  私は亀山市まちづくり推進会議のメンバーです。本日ゴミ拾い中、このハガキに出会いました。みなさまの調査に協力できれば幸いです。地球環境保護のため頑張って下さい。(三重県亀山市石水渓山中にて拾った)

    •  夏の高校野球の頃は甲子園で雨が降ると4時間後にはこちらでも雨が降り出します。これからは電気の消費量は年々増加の一歩と思います。クリーンなガスなら発電所は必要と思います。(三重県四日市市)

    •  先日淡路島まで出掛けました。車で神戸市を通過しましたが、とても大震災の後とは思えない程の復興ぶりに驚きました。これからも頑張って下さい。(三重県四日市市)

    •  ハガキが濡れていたので乾かして出しました。(滋賀県大津市)

    •  協力しますよ。(京都府京田辺市)

    •  大気汚染は重大な問題です。公害のない汚染のない発電所建設が出来ればいいのですが。(京都府京城陽市)

    •  公害が発生しないよう頑張って下さい。(兵庫県伊丹市)


    以上