2機140万kwフル稼働

安全と言えるのか?神鋼石炭火力発電所

重金属汚染問題から迫る

プログラム

13:00 受付開始

13:30 開会あいさつ

35 活動のまとめと今後の活動

50 海上ウオッチング調査報告

報告・・後藤 隆雄さん(元神戸大学講師)

14:20 休憩

14:30 「重金属汚染と神鋼石炭火力発電所」

  講師・・畑 明郎さん(大阪市立大学大学院教授)

15:30 フロア発言・討論

16:30 まとめ・閉会あいさつ

 2004年4月1日から神鋼石炭火力発電所は、2号機が営業運転を開始し、2機140万kwでのフル稼働体制に入りました。石炭火力発電所問題を考える市民ネットワークは、抗議の意味を込めて、4月3日午後1時30分より、神戸市勤労市民会館308号で「安全といえるのか?神鋼石炭火力発電所」と題して、大阪市立大学大学院教授の畑明郎先生を招いて学習決起集会を行い、約50人が参加しました。

 中央区連絡会の岡さんが開会のあいさつ、司会・進行役を務め、神鋼石炭火力発電所建設計画発表後の経過とこの間の運動で明らかになった問題点、今後の運動について火電市民ネット事務局の丸山さんが報告し、昨年8月4日に行った海上ウオッチング調査の分析結果を元神戸大学講師の後藤先生が報告しました。

 休憩後、大阪市立大学大学院教授の畑明郎先生に講演して頂き、石炭中に有害な重金属類がたくさんあること、発電所ボイラーで大量に燃やすことによって、集塵機や脱硫装置などで捕集されずに煙突から相当量の重金属が大気中に排出されることが、神鋼の事後調査報告資料や電力業界の資料などを基に明らかにされました。

石炭火力発電所問題を考える市民ネットワーク
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石炭火力発電所と重金属汚染

         2004年4月3日      

                            大坂市立大学・畑 明郎坪

1.石炭中の微量金属

 石油ショック後の石油火力発電所の新設制限、原子力事故による原子力発電所の新設困難などから、最近は天然ガス火力発電所や石炭火力発電所が新設されている。天然ガスには金属は含まれていないが、表1に示すように、石油や石炭には、さまざまな金属類が含まれている。太古の植物が化石化したものが石炭であり、太古の藻類が化石化したものが石油・天然ガスとされる。

 とくに石炭は、太古の大森林を供給源として植物が枯死・堆積して形成されたもので、植物中の無機元素や堆積湿原などに運び込まれた鉱物分が、石炭の起源なので、無機元素の種類や量も多い。そして、石炭中の炭素、水素、酸素、窒素以外の無機元素は50種類に及び1ppm〜0.1%含む微量元素は約40種類もあり、ウランなど放射性元素を含む場合もある。神鋼神戸発電?報告の表2でも、石炭中には硫黄分・窒素分・灰分以外に、フッ素(F)・塩素(Cl)の非金属類、水銀(Hg)、ヒ素(As)、クロム(Cr)、カドミウム(Cd)、鉛(Pd)、ベリリウム(Be)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)などの金属類、ウラン(U)・トリウム(Th)の放射性金属を含んでいることがわかる。

2.石炭燃焼に伴う微量金属の飛散

 石炭を燃焼させると、図1に示すように、揮発しやすい性質を持つ水銀・フッ素・塩素は、ガス状になり煙突から飛散する。ヒ素、アンチモン、セレン、鉛、亜鉛、銅なども高温で揮発するが、電気集塵機や湿式排煙脱硫装置で冷却されるとフライアッシュ(飛灰)に凝縮し捕集されるが、煙突に抜けていくフライアッシュ(ぱいじん)もある。フライアッシュの生成機構を図2に示すが、フライアッシュ中の重金属濃度は高くなる。

 電力中央研究所によれば、日本の石炭火力発電所のフライアッシュ(飛灰)中の重金属濃度は、ヒ素10〜40ppm、アンチモン3〜8ppm、鉛40〜70ppm、亜鉛80〜140ppm、銅50〜90ppmなどであった。また、フライアッシュ(ばいじん)中の重金属濃度は、水銀4〜5ppm、ヒ素80〜100ppm アンチモン7〜12ppm、セレン320〜355ppm、亜鉛170〜824ppm、鉛90〜155ppm、銅120〜160ppmなどと高濃度であった。

 鈴木らが予測した表3によれば、フッ素、塩素、ホウ素、ニッケル、マンガン、水銀、亜鉛などの排出量が多く、有毒なフッ化水素で排出されるフッ素と水銀の影響を警告する。 神鋼神戸発電?報告の表4でも、発電所排ガス中の微量物質排出量は、塩素974kg/年、フッ素918kg/年、水銀20kg/年、クロム15.2kg/年、マンガン14.2kg/年、ニッケル13.2kg/年、鉛7.6kg/年などが多い。塩素は有毒な塩化木素(塩酸)で排出され、有毒なフッ化水素で排出されるフッ素とともに、影響が危惧される。水銀濃度は、公設大気質調査によると、平成13年度2.0(0.31〜3.9)ng/?が平成14年度2.4(1.2〜14)ng/?へと上昇している。70万kWが2基となれば、水銀の排出量は2倍となるので、水銀にも注意する必要がある。

 クロム・マンガン・ニッケルは、図1に示したように、揮発しにくい金属だが、図3に示すように、灰粒子として排出されたものと考えられる。鉛は高温で揮発して排出したものと考えられる。表2に示したように、石炭中には塩素やフッ素が多く含まれているため、ダイオキシン類の生成も報告され、ダイオキシン類もわずかながら排出されている。その他、放射性金属のウランやトリウムなどもわずかながら排出されている。

 アメリカEPAによれば、1984年時点で都市ごみ焼却炉からの年間水銀排出量約40トンに対して、それ以外の排出源が約60トンあり、その大部分は石炭類や鉄鉱石からの排出が占めると報告している。表5に示すように、アメリカ以外にカナダ、ドイツ、メキシコなどの水銀俳出量が大きいが、石炭火力発電への依存度による影響が非常に大きいという。

 最近、大阪ガスや東京ガスの石炭から都市ガスを製造していた工場跡地で、水銀、鉛、ヒ素、シアンなどによる土壌・地下水汚染が発見されているが、これらは石炭に含まれていたためと考えられている。

3.石炭灰や汚泥の処理・処分

 石炭灰には、炉底に落下したボトムアッシュ(燃え殻)と電気集塵機捕集のフライアッシュ(飛灰)がある。神鋼神戸発電所では、ボトムアッシュ約1.4万t/年とフライアッシュ約12万t/年が発生し、全量セメント原料としている。セメント工場では、ロータリーキルン炉などで高温処理するので、セメント工場のフライアッシュ(ばいじん)として煙突から排出され、セメント工場の重金属汚染源となったり、重金属含有セメントとしてコンクリートとなる。しかし、コンクリートは人工石灰石であり、数十年で風化・劣化するので、コンクリート中の重金属は、環境中に拡散し環境を汚染することになる。

 湿式排煙脱硫装置で発生する汚泥(石膏)約2,500t/年は、脱水後、埋立処分しているが、汚泥には高濃度の重金属を含んでおり、処分場周辺の土壌・地下水・海水汚染をもたらすおそれがある。

4.参考文献

1)畑明郎『土壌・地下水汚染ー広がる重金属汚染』有斐閣、2001年。

2)日本土壌肥料学会編『土壌の有害金属汚染』博友社、1991年。

3)横山・朝倉・関(電力中央研究所)「石炭火力発電所排煙中微量物質の挙動調査」『狛江研究所レポート』?T88087,1989年。

4)鈴木・野田・二平「今日の巨大石炭火力発電所計画とアセスメントの諸問題」『日本の科学者』Vol.28,No.4,1993年。

5)木村龍男(資源環境技術総合研究所)「石炭中の微量元素ーその地球化学と環境問題」『応用石炭組織学会論文集』No.15、1996年。

6)高岡・武田「燃焼発生源からの水銀の排出」『環境衛生工学研究』Vol.15,No.3,2001年

7)神鋼神戸発電?『神鋼神戸発電所事後調査報告書(平成14年度)[概要書]』2003年7月。